行き着く場所(SS)
2009年 06月 19日
雑誌を読んでいると、さっきまで制服から私服に着替えていたはずの奈月の体温を、背中で感じた。
多分、座って、額を背中に押しつけてるらしい。
『ねぇ…ちょっと、こっち向いて、』
そう言って身体を離すから、向かい合うように、座り直した。
奈月の目は、不安そうに揺らいでいるから、何か抱え込んでるんだなって、すぐにわかる。
『よしくん、』
消え入りそうな、小さな声で呟いて、両手を握ってきた。
『どうした?』
手を握ってきたまま、俯いた奈月に、問う。
『身体の力、抜いてさ、目、つぶってくれない?』
俯いたまま、力なく言った言葉に、従う。
目をつぶってしまったから、視界は真っ暗で、手が動かされているのだけ感じる。
何かを、両手で包み込まされたのがわかった。
『このまま…両手に、思いっきり力入れて、』
そう言うのと同時くらいに、手の甲に、何かの液体が落ちてきたから、思わずつぶっていた目を開いた。
『、奈月…』
目の前の光景に、言葉を失う。
なんとなく、気付いていたような、気付いていなかったような、そんな感覚。
俺の両手は、奈月の細い首を包み込むように置かれていて、手の甲に落ちてきた液体は、涙だった。
『このまま…あたしのこと、殺して、』
涙に濡れて、不安そうに揺らぐ瞳に、苦しくなって、言葉が出て来ない。
『ねぇ、っ、よしくん…』
ギュッと奈月が目をつぶると、また、ポタポタと涙が落ちてきた。
『、なんで?』
やっと出てきた言葉はちっぽけで、何の役にもたたないような言葉だった。
『いつか、よしくんが、あたしのこといらなくなる前に、あたしを好きだって、愛してるって、思ってるうちに、あたしのこと、よしくんの手でっ…』
思わず、奈月を抱き締めた。
でも、そんな日は来ない、なんて、言えなかった。
思っていても、言ったところで、役にたたないって、わかっていたから。
『一生、あたしに囚われて生きてよ、苦しんで、ねぇ、よしくん、』
あぁ、そんなこと言うなよ。
そんな悲しいこと、言わないでくれ。
『奈月、』
抱き締めて、名前を呼ぶだけで精一杯な俺と、腕の中で泣きじゃくる奈月と。
お互いがわかってる。永遠なんて、存在しないって。
どんなに、今、お互いが想いを口にしても、いつか終わる。
なぁ、でも、俺は奈月となら信じられる気がするんだよ。
なんて言っても、きっと奈月の不安は消えないだろう。
『奈月、今、お前を殺したとしても、俺は、お前に囚われてなんて生きないよ』
涙で、ぐしゃぐしゃになった奈月の頬を包み込んだ。
『なっ、で…』
『お前を殺したら、俺もすぐ、後を追うから』
奈月は、小さくばかって呟いて、胸に顔をうずめた。
奈月が俺に抱く不安と、俺が奈月に抱く不安が違っても、行き着く場所は同じだろう。
墜ちるならば、ふたりで一緒に。
by haruki701
| 2009-06-19 23:09
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